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ホスピスの現場から:/12 安らぎ、癒やし、信頼の場 /大阪
病気、病院の話題はとかく暗くなりがちですが、
いい話が続きます。
ホスピスの現場から:/12 安らぎ、癒やし、信頼の場 /大阪
◇「主人にとって、天国だったと思います」毎日新聞のシリーズモノですねぇ。
--最期に「ささげもの」同意
高槻市の高槻赤十字病院緩和ケア病棟(ホスピス)で03年9月にがんで亡くなった扇直三郎さん(当時82歳)。ホスピスで過ごした約1カ月間を、妻多加子さん(79)は「主人にとって、天国だったと思います」と振り返る。夫を亡くした寂しさはある。だが、安らかに旅立ったと思えるから、落ち込んで泣くことはないという。
多加子さんは、ホスピスに暗いイメージを持っていた。しかし、実際に行って驚いた。まず、目に入る色彩が一般病棟と違い、癒やされる感じがする。ピンク色を基調とした大きな絵を、直三郎さんは気に入った。
そして、病院スタッフの思いやり。「主人は喜んでいました。人の親切や温かさが身にしみて分かるところでした」と多加子さんは言う。
ある時、看護師が「扇さん、カラオケ好き?」と部屋に。看護師が何曲か歌い、高槻音頭も歌い出した。直三郎さんを見ると、ベッドの上で踊っている。「患者さんの気持ちを引き立ててくれるんですよ。どれだけありがたかったか」
看護師が勤務後、自宅から犬を連れてきて、抱かせてくれたこともあった。看護師が「犬好き?」と聞き、直三郎さんが「うん」と答えたためだ。
夜、直三郎さんが約1時間おきにトイレに立つため、多加子さんは起きるようになっていた。ところが、看護師から「絶対に起きなくていいんだから」と強い調子で言われ、楽になった。
看護師だけではない。病室で音楽を聴いていると、医師が教会関係の音楽をたくさん持ってきてくれた。感謝の思いは尽きない。
亡くなる4、5日前のことだ。決して忘れられない出来事がある。カトリック教会での知り合いでもある人見滋樹院長が、ベッドサイドで直三郎さんに語りかけた。「人生で一番大きなささげものをしてくれませんか」と。何を言い出すのかと思っていたら、「解剖にあなたの体を提供していただけませんか」と言う。多加子さんは驚いた。
だが、既に話せなくなっていた直三郎さんは、コクリとうなずいた。多加子さんは断ろうとも思ったが、悩んだ末、献体ではなく病理解剖を承諾した。「神様にささげものをさせていただいたという安堵(あんど)感が得られました」。このときの決断が、今では心の支えとなっているという。
人見院長は説明する。「本人と病理解剖について話すことはめったになく、そこまで信頼しあって話ができたことに、われながら感心している。ホスピスに入院した時点で、がんとの闘病姿勢が変化し、原因解明、医学への貢献という気持ちがうせる人は多い。解剖に応じてくれたことに、敬意を表したい」
多加子さんは、知人の見舞いに同病棟を訪れることがある。「私、両親が亡くなった病院に行くのは、嫌な思い出ばっかりで嫌だったんですよ。でも、ここは嫌じゃない。懐かしいんです」【根本毅】=つづく(毎週月曜掲載)
9月18日朝刊
病気、病院の話題はとかく暗くなりがちですが、
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